役員の分掌変更の退職慰労金を分割払いにしたら・・・!?
2014-01-08
原告は、
役員の分掌変更に伴い退職慰労金を支給することを決定し、
その一部を当該分掌変更のあった事業年度(平成19年8月31日)
残りをその翌事業年度(平成20年8月29日)に支給したとして
これを支給をした各事業年度の損金の額に
それぞれ算入して法人税の確定申告をした。
しかし税務署は、
分掌変更の翌事業年度に支給された金員は
退職給与ではなく
損金の額に算入されない役員給与に当たるとして
法人税の更正処分等及び源泉徴収に係る所得税の納税告知処分等を行った。
このことから、
原告が、今回の金員は退職給与として取り扱われるべきであるとして、
その全部の取消しを求めた
事案です。
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今回の主たる争点は、
1)更正通知書の理由付記に不備があるか否か
2)翌事業年度に支給されたお金を退職給与として取り扱うことができるか否か
です。
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【原告】は、
争点1)に対して、
更正通知書に付記された理由に、
本件更正処分の根拠となる法令や通達が何ら示されておらず、
このことは更正の理由付記の不備に当たる
として全部取り消しを求める。
争点2)に対して、
通達では、
役員が現実に退職しなくとも、
常勤役員が非常勤役員になったことなど、
その職務内容、役員としての地位が激変したことによる場合で、
実質的に退職と同様の事情にあるものについては
「退職した」場合に該当するものとして
取り扱う旨を定めている。
そして、その退職給与の額を支払った日の属する事業年度の損金の額に算入できる。
本件役員が分掌変更により退職した事情にあることから、
退職慰労金を支払うことを決定したものの、
資金繰りの都合により一括で支払うことができなかったため
分割で支払い、
その支払った事業年度の損金の額に算入したものであり、
このことは、上記通達の定めに従っていることから
有効である。
【税務署】は、
争点1)に対して、
更正通知書に付記された理由には、
法人税基本通達9-2-32(以下「本件通達」という。)に定められている内容を記載した上で、
翌事業年度に支給されたお金が
役員退職給与とは認められず
定期同額給与等以外の給与に該当することから
これを原告の所得金額に加算した旨を記載している。
したがって、理由付記制度の目的を充足しているというべきであり、
理由付記に不備は認められない。
争点2)に対して、
本件通達は、
役員の分掌変更等により、
実質的に退職したと同様の事情にある役員に対して支給した
臨時的な給与を退職給与と認める旨を定めている。
本件通達は、引き続き在職する場合の一種の特例として打切り支給を認めているものであり、
本件通達が適用されるのは、
原則として、債務の確定だけではなく、
実際に金銭等の支給があった場合に限られる。
未払の期間が長期にわたったり、
長期間の分割払となっていたりするような場合には適用されない。
今回の退職慰労金は、
平成22年8月期においていまだ残金が支払われておらず、
未払の期間が長期である場合に該当する。
また、翌事業年度に支給されたお金の分割支給の理由につき、
一括で支給できる資金力がなかったことのほか、
これまでに続けてきた黒字決算が途切れること
赤字決算を銀行に提出できないことなどを理由としていることからすると、
利益調整の目的があったと認められる。
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いきなり、裁決を見るのではなく
これはどういう判決になるか
すこし考えてみてください。
税務というと
決算書の数字や申告書をイメージするかもしれませんが、
そもそも税法に則った判断処理のこと
なのです。
その判断処理を間違えると
払う必要のないキャッシュが
会社から失われてしまう可能性があります。
この判断処理を
今まで間違っていた納税者の割合や
なんと7割以上(国税庁のHPより)
判断処理
大丈夫ですか?
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【裁判官の裁決】は、
争点1ですが、
本件更正通知書に付記された理由には、
更正処分の対象となった事実として翌事業年度に支給されたお金を支給したこと、
退職給与とは認められず、
法人税法第34条に規定する定期同額給与等以外の給与に当たる旨が記載されており、
退職給与に関する法令や通達の記載はないものの、
いかなる事実に対する法的評価であるかを明確に判別することができる程度に
理由が表示されていると認めることができるから、
本件更正通知書に付記された理由に違法となる不備があるとはいえない。
争点2は、
本件分掌変更から1年近くを経て支給されたものであり、
本件分掌変更の時に支給された金員とはいえない。
そこで、本件分掌変更の時に当該支給がされなかったことが
合理的な理由によるものであるかどうかについてみると、
平成19年8月末における現金及び預金の残高のみでは
本件退職慰労金の全額を支給できる状況にはなかったことがうかがえるものの
原告の代表取締役は、
翌事業年度に支給されたお金の支給時期に関する事情について、
当座貸越額に余裕はあるものの、
先行して資金需要があるなどの資金繰りの事情によるものである旨説明するにとどまり、
本件退職慰労金に関する株主総会議事録や取締役会議事録が存在せず、
請求人が主張する資金需要を認めるに足りる具体的な資料もない。
本件退職慰労金の支払に関しては、
原告の決算の状況を踏まえて支払がされていることがうかがえることからすると、
本件第二金員をその支払日の属する事業年度において損金算入を認めた場合には、
請求人による恣意的な損金算入を認める結果となり、
課税上の弊害があるといわざるを得ない。
過少申告加算税賦課決定処分は適法である。
本件納税告知処分により納付すべき源泉所得税を
法定納期限までに納付しなかったことについて、
本件不納付加算税賦課決定処分は適法である
とした。
「平成24年5月25日裁決」
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今回は通達の解釈の違いが
一つ目の決めてでした。
しかし、裁判官は
通達だけでなく
実態として資金繰りに困っており
致し方なく
行った分割支払いであったなら
考慮する余地があるといった
考え方もしています。
つまり、通達の解釈上では
ダメとなっていても
会社の資金繰り事情の説明や
株主総会議事録や取締役会議事録がしっかりとされていれば
この裁決は
変わっていたかもしれないのです。
これは
わたしがメルマガで何度も言っている
資料などの『形式準備』と
筋の通った説明による『実態準備』を
していれば
追徴税や加算税などを
支払うことがなかったのです。
税務調査や税務判断は
このような準備によっても
結果が変わってくることがあるのです。
ご不明な点は
お気軽に中島税理士・行政書士事務所まで
お問い合わせください。