保険金収入は盗難損失と同一時期に必ず益金の額に算入すべきなのか!?【税務調査】

2019-07-04
納税者は
所有する車両に対して

以下の内容の
自動車総合保険契約を
締結していた。


・契約期間:平成13年8月30日まで

・車両保険金(協定保険価額):950万円


平成13年7月22日、
この車両が
盗難に遭ったため、

納税者は
同年8月29日に
保険会社に対して
車両保険金の支払を
請求した。


同年8月31日、
保険会社は969万円
(全損盗難950万円、その他19万円)
を支払う旨の通知をし、

同年9月4日、
納税者に
上記保険金を
全額支払った。


納税者は
7月決算で、

盗難損失は
平成13年7月期に
計上しており

保険金収入は
金額が確定した
平成14年7月期に
計上していた。


この保険金収入を
平成13年7月期に計上するのが
正しいのか。

それとも
平成14年7月期に計上するのが
正しいのか。

を争った裁判である。

────── ∞ ────── ∞ ────── ∞ ───────

【納税者】、

車両の盗難損失は、
車両が盗難にあった
平成13年7月22日の属する
平成13年7月期の事業年度において
損金の額に
算入するべきであり、

保険金収入は、
支払通知のあった
平成13年8月31日に
確定したといえるため、

同日の属する事業年度
(平成13年7月期の翌事業年度)
の益金の額に
算入すべきである。


法人税法22条は、
益金と損金の額に
算入する金額を、

別々に確定させることを
予定しており、

盗難損失から
保険金収入を
控除すると
規定した
別段の定めもない。


よって、
盗難損失と保険金収入は、
それぞれ独立して発生し、
確定時に
計上されるべきである。


これは、
昭和43年の最高裁判決で
採用されていた
同時両建説
(損失とそれを補てんする収入は、
 発生原因が共通で密接した関係にあるので
 同一時期に計上するという説)
が、

昭和60年の最高裁判決によって
異時両建説
(損失は発生時に、
 それを補てんする収入は
 確定時に
 それぞれ独立して計上するという説)
に変更されていることからも
妥当な考え方といえる。


また、
保険金収入が
確定するためには、

①保険金の請求に係る原因が適法か
②保険金請求手続が適切か
③保険金支払の有無と支払金額はいくらになるか

について、

保険会社が調査、検討する
必要がある。


よって、
保険金収入が
確定するのは、

支払通知のあった
平成13年8月31日となり、

保険金収入は
同日の属する事業年度の
益金の額に
算入すべきである

と主張した。



【税務署】、

車両の盗難損失と
保険金収入は、

ともに
平成13年7月期の
損金と益金の額に
計上すべきである。


昭和43年の最高裁判決は、
横領により
法人が被った損害と
その損害に係る
損害賠償請求権について、

損害を生じた事業年度に
損金と益金として
同時に計上すべきであるとして、

同時両建説をとっている。


同時両建説は、
損失とそれを補てんする収入は
発生の原因が
共通で密接な関係にあることから、

これらを
同一時期に
計上しようとする考え方であり、

この考え方は
盗難損失と保険金収入の場合にも
当てはまる。


また、
昭和60年の最高裁判決は、
昭和43年の判決の法理を
認めており、

昭和60年の判決を根拠に
異時両建説を
採用しようとする
納税者の考えは
受け入れられない。


本件では、
協定保険価額を950万円とする
車両価額協定保険特約が
締結されており、

車両が全損した場合に
保険会社が支払う保険金額は、
協定保険価額であると
定められている。


また、
本件の車両盗難は、
保険契約に定められている保険金が
支払われないケースには
該当しない。


したがって、
保険金が支払われない可能性は
極めて低く、

支払われる保険金額も
ほぼ確定しているのであるから、

支払通知を受けるまでもなく、
盗難発生と同時に
保険金収入は
確定していたといえる

と主張した。

────── ∞ ────── ∞ ────── ∞ ───────

どちらの主張が
正しいのでしょうか?


いきなり、裁決を見るのではなく
これはどういう判決になるか
すこし考えてみてください。


税務というと
決算書の数字や申告書をイメージするかもしれませんが、
そもそも税法に則った判断処理のこと
なのです。


その判断処理を間違えると
払う必要のないキャッシュが
会社から失われてしまう可能性があります。


この判断処理を
今まで間違っていた納税者の割合や
なんと7割以上(国税庁のHPより)


判断処理
大丈夫ですか?


本来の裁判判決は
難解で読むづらいものになっていますので、
読みやすいように多少
書き換えています。

────── ∞ ────── ∞ ────── ∞ ───────

【裁判官の裁決】、

盗難による損失は、
法人税法22条3項3号の損失に
該当する。


盗難にあった時点で
損失を認識することができるので、

その損害額は
盗難の事実があった日に属する
事業年度の
損金の額に
計上する。


一方、
保険金収入は、
同条2項に規定される収益に
該当する。


適正な期間損益計算の観点からは、
費用収益対応の原則に準じ、

盗難損失との間に
収支の関係性が認められる。


保険金請求権は、
車両の盗難が発生したと同時に
権利内容が確定し、
行使が可能になると
解され、

保険金支払額は
保険契約によって
定められている。


本件の場合、
保険金支払額は
協定保険価額である
950万円と決まっており、

保険契約の中にある保険金が
支払われない項目にも
該当しない。


このことから、
盗難時に保険金が
支払われることと、
支払われる保険金の額は
確定していたといえる。


損失と収益が
同じ原因によって
生ずる場合でも、

それぞれが
独立して確定することは
否定されない。


しかし、
本件における保険金収入は
盗難時に
確定していたと
いうべきであるから、

盗難損失を計上する
事業年度の損金の額に
算入するべきである。


また、
昭和60年の判決の原審は、
損失と収益が
同一原因によって
生ずるものであっても、

各々独立して確定すべきである旨を
判示したものであり、

同一時期に確定した
損失と収益を
同一事業年度に計上することを
否定するものではない。


以上のとおり、
本件車両の盗難損失と
それに係る保険金収入は、

ともに
車両盗難時に
確定していたのであるから、

盗難が発生した事業年度の
損金と益金に計上することが
相当であり、

納税者の主張は
採用できない

とした。

「大阪地方裁判所 平成16年4月20日判決」

────── ∞ ────── ∞ ────── ∞ ───────

法人の取引は
様々な収益や費用、損失が
発生します。


ですので、
益金や損金の算入する時期は
画一的には
決められていません。


ただ、財務諸表の原則として
費用収益対応の原則というものがあって

費用と収益が
共通で密接な関係にある場合は

原則
同じ事業年度で
計上しなければならないというものが
あります。


もちろん例外もありますので、

取引の性質を理解して
実態に合った
処理をする
必要があります。


また、
過去の裁決例や判例等を
参考にする場合には

前提や基礎事実を
十分に理解しなければ

今回のような
誤った判断をしてしまうので
ご注意ください。


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